多部位・長期・頻回は、算定でどう扱われるか

言葉の中身をそろえるところからです。施術の部位は、負傷の数で数えます。打撲・捻挫・挫傷を別々の箇所に負っていれば、その数だけ部位になります。複数の部位を同時に施術するのが多部位、施術が長い月数に及ぶのが長期、1か月の回数が多いのが頻回です。

料金の逓減では、長期は施術開始から5か月を超える月、頻回は5か月を超え、かつ1か月あたり10回以上の月を指します。多部位や長期そのものが禁じられているわけではありません。実際にその負傷があれば算定できます。ただし、部位が増え、月数が延び、回数が重なるほど、料金は逓減で下がり、審査では見られやすくなる、という二つの圧力がかかります。

令和8年7月から逓減はこう変わる

まず効くのが、逓減の強まりです。これまで施術料の逓減は3部位目以降の60%だけでしたが、令和8年7月の改定案では、2部位目を80%に逓減する仕組みが新しく入ります。後療料だけでなく、温罨法料・冷罨法料・電療料も2部位目逓減の対象です。

区分逓減後の割合
2部位目80%(令和8年7月から新設)
3部位目以降60%
5か月超の長期75%
5か月超かつ1月10回以上の頻回50%

出典: 厚生労働省「柔道整復療養費の令和8年度料金改定(案)」令和8年4月30日(2026年6月5日確認)。長期・頻回の逓減は多部位の逓減とは別に、重ねてかかります。

打撲・捻挫の後療料は505円から550円へ上がりますが、2部位目はその80%で算定します。長期や頻回が重なれば、さらに75%・50%の逓減が乗ります。単価が上がったぶんを、逓減が削る形です。2部位を中心に長く施術している院ほど、改定後は手取りが見込みより伸びにくくなります。料金表の引上げだけを見て請求の構成を変えないと、数字が合わなくなります。

「部位転がし」がいちばん見られる

逓減と並んで効くのが、審査の目です。厚生労働省は、いわゆる「部位転がし」について調査を行っています。部位転がしとは、ひとつの負傷が治った後に、別の部位や新しい負傷名に付け替えて施術を続ける形です。調査では、保険者が部位転がし疑いとして抽出している着眼点が示されています。

保険者が「部位転がし疑い」として見る着眼点 ・3部位以上、3か月超、月10回以上の施術が続いている
・ひとつの部位が治った翌月に、別の部位で初検を繰り返す
・同じ負傷名や近接した部位に、毎月のように初検料を算定する
・過去6か月で、部位の付け替えが2回以上ある
・最初の負傷から8か月以上、同じ施術所で施術が続く

共通しているのは、治癒と新たな負傷を短い間隔で繰り返し、結果として施術が長く続く形です。同じ負傷名や近接部位への初検を毎月のように重ねる請求も、抽出の対象になります。実際の負傷があれば問題ありませんが、続けるために部位を付け替えているように見える請求は、ここで引っかかります。

償還払いに変わる新しい基準

改定では、見られる側にもう一つ線が引かれます。令和8年7月の改定案で、直近1年間に通算8か月以上かつ通算9部位以上の施術を受けている患者が、患者ごとの償還払いへ切り替えられる事例に加わりました。償還払いになると、患者はいったん全額を払い、自分で保険者へ請求することになります。

この基準は、柔整審査委員会の重点審査項目にも位置づけられました。長い月数にわたり、多くの部位で施術を受けている患者は、これまでより目が向きやすくなる、ということです。8か月・9部位という具体的な数字が出たことで、自分の院に当てはまる患者がいるかどうかを、はっきり数えられるようになりました。

自分の院を、どの数字で点検するか

あれこれ不安がるより、数字で棚卸しするほうが早く片付きます。次の数字で、自分の患者を一度並べます。

点検する数字見るところ
部位数2部位・3部位以上の患者が、全体のどれくらいか
施術月数5か月を超えて続いている患者がいるか
月の回数1か月10回以上になっている患者がいるか
付け替え治った翌月に別の部位で初検を付けていないか
通算直近1年で通算8か月以上かつ9部位以上の患者がいるか

逓減の基準(5か月超・月10回以上)と、部位転がしの着眼点(3か月超・付け替え)は、しきい値が違います。両方で並べると、見直す患者が浮かびます。

並べてみると、逓減で単価が下がる患者と、審査で見られやすい患者は、だいたい重なります。どちらの理由でも、見直す対象は同じ層です。多い順に上から手をつければ、効率よく整います。

算定をどう見直すか

点検が済んだら、見直す点と備える点を分けて手をつけます。

見直す

  • 実際の負傷があるかを毎回確かめ、根拠のある部位だけで算定する。
  • 治った後に部位を付け替えて続ける形をやめる。続けるなら、新たな負傷の根拠を施術録に残す。
  • 5か月を超える長期、月10回以上の頻回には、続ける理由を施術録に書いておく。
  • 慢性の肩こり・腰痛や疲労へのケアは、保険から外して自費のメニューに移す。

備える

  • 2部位目逓減で下がる単価を試算し、自費メニューでの埋め合わせを考える。
  • 直近1年で通算8か月以上かつ9部位以上の患者を洗い出し、施術の必要性を説明できるようにする。

多部位・長期・頻回は、それ自体が悪いのではありません。実態のある負傷なら算定できます。見直すべきは、逓減で単価が下がるのに構成を変えない請求と、続けるために部位を付け替える請求です。実態のある算定に整え、慢性のケアを自費へ移せば、逓減が強まっても審査が機械化しても、見直しは一度で済みます。

よくある質問

2部位目の逓減は、いつから始まりますか?
令和8年7月施行の予定です。後療料などの2部位目を80%に逓減する仕組みが新しく入ります。3部位目以降は従来どおり60%、温罨法料・冷罨法料・電療料も2部位目逓減の対象です。
長期・頻回はどこからが逓減ですか?
施術開始から5か月を超える月が長期で75%、5か月を超え、かつ1か月10回以上の月が頻回で50%に逓減されます。これらは多部位の逓減とは別に重ねてかかります。
部位転がしは、どう見つけられるのですか?
厚生労働省の調査では、保険者が3部位以上・3か月超・月10回以上の施術や、治った翌月の別部位での初検、近接部位への毎月の初検料算定などを部位転がし疑いとして抽出していることが示されています。
通算8か月・9部位というのは何の基準ですか?
令和8年7月の改定案で、直近1年間に通算8か月以上かつ通算9部位以上の施術を受けている患者が、患者ごとの償還払いへ切り替えられる事例に加わりました。柔整審査委員会の重点審査項目にも位置づけられています。
多部位を減らすと収入が落ちます。どうすればいいですか?
実態のある負傷は算定できるので、減らすのは根拠のない部位や付け替えだけです。逓減で下がるぶんは、慢性のケアを自費メニューに切り分けて補います。保険と自費の線引きが、収入と審査の両方の答えになります。

出典

SOURCES | 一次情報
  1. 厚生労働省「柔道整復療養費の令和8年度料金改定(案)」(第35回 柔道整復療養費検討専門委員会 令和8年4月30日 資料) mhlw.go.jp/content/12404000/001696843.pdf (2026年6月5日確認)
  2. 厚生労働省「いわゆる『部位転がし』に関する調査について」(第35回 柔道整復療養費検討専門委員会 令和8年4月30日 資料) mhlw.go.jp/content/12404000/001696853.pdf (2026年6月5日確認)
  3. 厚生労働省「柔道整復療養費のオンライン請求導入等について(中間とりまとめ)」令和7年3月12日 mhlw.go.jp/content/12601000/001467878.pdf (2026年6月5日確認)

本記事は令和8年4月30日時点の改定案を含みます。逓減の割合や償還払いの基準の最終的な内容は、施行前に出る告示・通知で確定します。請求実務の判断は、必ず厚生労働省の最新の発表と、所属団体・保険者の案内で再確認してください。

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