受領委任の中止は、何をすると起きるのか

不安の正体を、まず制度の言葉で押さえます。柔道整復師は、患者から療養費の受領を委任してもらい、保険者へ請求する受領委任の取扱いを行っています。この請求の内容に不正または著しい不当が認められると、地方厚生局は受領委任の取扱いを中止し、施術所名などの措置内容を公表します。

中止の重さは、その後に表れます。中止になると、原則として5年間は受領委任が認められません。患者がその場で自己負担分だけを払う、いつもの保険の取扱いができなくなり、いったん全額を受け取って患者が自分で保険者へ請求する形に戻ります。これは患者にとっても手間で、来院が続きにくくなります。公表と5年という二重の重さが、受領委任の中止です。

何が問題とされてきたか

では、何が問題として見られてきたのか。会計検査院は平成21年度の決算検査報告で、柔道整復療養費を取り上げ、検査した事例の中身を数字で示しました。古い調査ですが、どこに目が向くかは今に通じます。

会計検査院が検査した事例での割合割合
3部位以上の施術を受けていた患者64.3%
3か月を超えて施術を受けていた患者38.5%
月10回以上の施術を受けていた患者28.7%
外傷性でない肩こり等への施術50.7%
聞き取りで施術部位が申請書と異なった例66.0%

出典: 会計検査院 平成21年度決算検査報告「柔道整復師の施術に係る療養費について」(2026年6月5日確認)。検査の対象とした事例での割合であり、全国の施術所全体の比率ではありません。

多くは、多部位・長期・頻回の施術と、外傷性でない症状への施術、そして負傷名と実際の部位の食い違いです。会計検査院はこれらをもとに、支給対象となる負傷の範囲が明確でないこと、保険者の点検・審査が不十分なことを指摘しました。厚生労働省はこれを受け、算定基準の明確化や、全都道府県への療養費審査委員会の設置などを進めてきました。狙われやすい型は、この時点ですでに名指しされている、と読みます。

保険で請求できる負傷、できない負傷

正す出発点は、保険の対象の線引きです。柔道整復療養費で請求できるのは、急性の外傷に限られます。具体的には、打撲・捻挫・挫傷(肉ばなれを含む)と、骨折・脱臼です。骨折・脱臼は、応急手当の場合を除いて、あらかじめ医師の同意が必要です。

保険で請求できる保険で請求できない
打撲・捻挫・挫傷(急性の外傷)慢性の肩こり・腰痛・倦怠
骨折・脱臼(応急手当を除き医師の同意が必要)疲労回復・健康増進・予防のための施術
原因がはっきりした、その日の負傷負傷の原因がない、日常的な不調

出典: 会計検査院 平成21年度決算検査報告、厚生労働省の療養費の取扱いより整理(2026年6月5日確認)。

つまり、慢性の肩こりや腰痛、疲れを取るための施術は、保険では請求できません。これらを「捻挫」「打撲」といった急性の負傷名に置き換えて請求すれば、不正請求にあたります。ここを切り分けないまま保険に寄せ続けることが、中止につながる入口です。慢性のつらさに応えるなら、自費のメニューで受けるのが筋です。

負傷名・部位・回数のどこを正すか

線引きが決まったら、申請書の中身を実態に合わせます。見られるのは、負傷名と施術部位、そして回数です。

負傷名は、実際の負傷とそろえます。施術した部位と、申請書の負傷部位が食い違っていないかを確かめます。多部位・長期・頻回の請求は、それ自体が直ちに不正になるわけではありません。実際にその負傷があれば算定できます。問題になるのは、負傷の実態がないのに部位を増やす、施術を続けるために部位を変える、といった付け方です。施術録に、いつ・どこを・なぜ施術したかを残しておけば、実態のある請求だと示せます。

「部位を変えて続ける」が最も見られる ひとつの負傷が治っても、別の部位に付け替えて施術を続ける形は、会計検査院の検査でも数字に表れていました。施術を続けたいなら、保険の負傷としての根拠があるかを毎回確かめ、根拠がなければ自費へ移します。

これから審査はどう変わるか

正しておく値打ちは、これから上がります。オンライン請求の中間とりまとめでは、療養費の審査にコンピュータチェックを導入するとされています。形式の確認だけでなく、同じ患者の請求を時系列で見る縦覧点検、複数の施術所をまたいで見る横覧点検、他の制度の給付と突き合わせる点検などが入ります。複数部位への施術や長期・頻回の施術、施術所単位の傾向も点検の対象です。

言いかえると、これまで人の目で抜き取っていた点検が、機械で広く回るようになります。一度の請求では目立たない型でも、時系列や施術所単位でならすと浮かびます。請求の中身が見えやすくなるぶん、実態と合った請求にしておくことが、これまで以上に効きます。

今、請求の何を正すか

不安を消す近道は、思い当たる点を先に直すことです。順に手をつけます。

今のうちに正す

  • 保険で請求しているのが、急性の外傷(打撲・捻挫・挫傷、骨折・脱臼)だけになっているかを確かめる。
  • 慢性の肩こり・腰痛・疲労へのケアを保険に乗せていないか見直し、当たるものは自費に切り分ける。
  • 負傷名と、実際に施術した部位が食い違っていないかをそろえる。
  • 施術録に、負傷の原因・部位・経過を残し、多部位・長期・頻回には根拠を添える。

気をつける

  • ひとつの負傷が治った後に、部位を付け替えて施術を続ける形。根拠がなければ自費へ移します。
  • 患者が「保険でやって」と言うままに、対象外の症状を保険に乗せること。断る理由を説明できるようにしておきます。

受領委任の中止は、不正または著しい不当があったときの措置で、公表と5年という重さがあります。裏を返せば、保険の対象を守り、負傷名と部位をそろえ、施術録を残していれば、審査が機械化しても怖くありません。慢性のケアは自費で受ける。保険は急性の外傷に絞る。この切り分けが、不安をいちばん早く消します。

よくある質問

受領委任が中止になると、どうなりますか?
原則5年間、受領委任が認められません。患者がその場で自己負担分だけを払う取扱いができなくなり、いったん全額を払って患者が保険者へ請求する形に戻ります。施術所名などの措置内容も公表されます。
肩こりや腰痛は保険で請求できませんか?
原則できません。対象は打撲・捻挫・挫傷といった急性の外傷と、骨折・脱臼です。慢性の肩こり・腰痛や疲労回復のための施術は対象外で、これらを急性の負傷名に置き換えて請求すると不正請求にあたります。
多部位や長期の施術は、それだけで不正ですか?
実際にその負傷があれば、多部位や長期の施術そのものは不正ではありません。問題は、負傷の実態がないのに部位を増やす、続けるために部位を変えるといった付け方です。施術録で実態を示せるようにしておきます。
古い会計検査院の数字は、今も関係ありますか?
検査自体は平成21年度のものですが、多部位・長期・頻回や負傷名の食い違いという着眼点は今に続いています。中間とりまとめのコンピュータ審査も、同じ点を点検します。狙われやすい型を知るうえで役立ちます。
患者に「保険で」と求められたら、どうすればいいですか?
対象外の症状は保険で請求できないことを説明し、自費のメニューで受けます。求められるまま保険に乗せると、不正請求の入口になります。断る理由を一言で言えるようにしておくと、現場で迷いません。

出典

SOURCES | 一次情報
  1. 関東信越厚生局「保険医療機関等、訪問看護ステーション及び柔道整復師等において不正請求等が行われた場合の取扱いについて」 kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/gyomu/gyomu/hoken_kikan/fuseiseikyu.html (2026年6月5日確認)
  2. 会計検査院「平成21年度決算検査報告 柔道整復師の施術に係る療養費について」 report.jbaudit.go.jp/org/h21/2009-h21-0357-0.htm (2026年6月5日確認)
  3. 厚生労働省「柔道整復療養費のオンライン請求導入等について(中間とりまとめ)」令和7年3月12日 mhlw.go.jp/content/12601000/001467878.pdf (2026年6月5日確認)

本記事は制度の取扱いと過去の検査報告をまとめたものです。個別の請求が適正かどうかの判断は、必ず厚生労働省・地方厚生局の最新の通知と、所属団体・保険者の案内で再確認してください。

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