柔道整復療養費は、どれだけ減ったか
まず、保険から出るお金の総額です。厚生労働省の推計によると、柔道整復療養費は平成25年度の3,855億円から、令和3年度には2,867億円まで下がりました。8年でおよそ26%減です。途中の令和2年度は、コロナ禍の影響で対前年度10.9%減と大きく落ち込みました。
| 年度 | 柔道整復療養費(推計) |
|---|---|
| 平成25年度 | 3,855億円 |
| 平成27年度 | 3,789億円 |
| 平成29年度 | 3,437億円 |
| 平成30年度 | 3,278億円 |
| 令和元年度 | 3,178億円 |
| 令和2年度 | 2,831億円 |
| 令和3年度 | 2,867億円 |
出典: 厚生労働省「柔道整復、はり・きゅう、マッサージ、治療用装具に係る療養費の推移(推計)」(医療保険に関する基礎資料・令和3年度。2026年6月5日確認)。
令和3年度は2,867億円と、前年から1.3%の微増でしたが、水準は低いままです。平成25年度から見れば、毎年のように前年を下回ってきた流れの中にあります。国民医療費が同じ期間に増え続けているのと比べると、柔道整復療養費だけが反対方向に動いている、という形です。保険から出る療養費は、一時の落ち込みではなく、構造的に縮んでいます。
施術所と施術者は、どう動いたか
次に、店と担い手の数です。療養費が減る一方で、施術所も施術者も増えています。令和4年衛生行政報告例によると、柔道整復の施術所は50,919か所で、前回(令和2年度末)より555か所、1.1%増えました。就業柔道整復師は78,827人で、前回より4.0%増えています。
| 区分 | 数(令和4年度末) | 前回比 |
|---|---|---|
| 柔道整復の施術所 | 50,919か所 | +1.1% |
| 就業柔道整復師 | 78,827人 | +4.0% |
出典: 厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(2026年6月5日確認)。前回は令和2年度末との比較。
施術所数は、平成の終わりから令和にかけて、4万2千、4万5千、4万8千、5万と階段を上るように増えてきました。直近は1.1%増と、伸びはゆるやかになっていますが、それでも増加は止まっていません。担い手の柔道整復師も、毎回4%前後の増加が続いています。つまり、保険から出るお金が減るなかで、それを分け合う店と人は増え続けている、ということです。
総額は縮み、店は増えた
この二つを重ねると、現場の実感の正体が見えます。保険の総額(療養費の合計)が縮み、それを分ける店(施術所)が増える。割り算をすれば、1施術所あたりの保険収入が薄くなるのは、避けられません。
「患者は来ているのに手取りが増えない」という実感は、気のせいではありません。一つの院の努力とは別のところで、分母の店が増え、分子の総額が縮んでいます。同じ保険のやり方を続けるだけでは、1院あたりの取り分は薄まっていく。この構造を、まず数字で受け止めます。
なぜ保険の療養費は伸びないのか
縮む理由は、需要だけの話ではありません。制度の側にも、保険の療養費を抑える流れがあります。
- 改定率が近年は小幅なプラスにとどまっています。令和8年7月改定は0.60%で、近年では大きい方ですが、物価上昇への対応分が中心です。
- 多部位・長期・頻回の適正化が進み、令和8年7月からは2部位目の逓減も新設されます。1回あたりの単価を抑える方向です。
- オンライン請求の導入後は、縦覧・横覧・突合といったコンピュータ審査が入る方向で、保険に偏った請求は通りにくくなります。
これらは、保険から出る療養費の伸びを抑える方向にそろっています。改定で単価が少し上がっても、逓減と審査の強化が重なれば、保険収入が大きく伸びる流れにはなりません。市場の縮小は、患者の数だけでなく、制度の設計にも支えられている、と読みます。
数字を、自分の院にどう当てるか
全国の数字は、自分の院に重ねて初めて使えます。市場全体の動きと、自院の位置を並べます。
- 自院の保険収入(療養費)が、この3〜5年でどう動いたかを並べる。全国と同じく減っているか、横ばいか。
- 保険と自費の比率を出す。保険にどれだけ依存しているかが、縮小の影響の大きさになります。
- 患者1人あたりの単価を出す。保険だけの患者と、自費を組み合わせた患者で、どれだけ違うかを見ます。
全国の療養費が26%減るなかで、自院の保険収入が横ばいなら、シェアを保てています。全国より速く減っているなら、立地や患者層に固有の理由があります。保険依存が高い院ほど、市場の縮小がそのまま響きます。数字を当てれば、一般論の不安が、自分の院の具体的な課題に変わります。
市場の縮小を、どう読むか
最後に、構造を経営の向きに落とします。読み方は一つです。保険の療養費は構造的に縮む前提で、院を設計します。
守る
- 保険は、適正な請求で守る。多部位・長期・頻回を実態に合わせ、審査が強まっても通る請求にしておく。
- 急性の外傷という保険の土俵を、きちんと押さえておく。
育てる
- 自費メニューの比率を上げ、保険以外の収入の柱を作る。慢性のケアは自費で受ける。
- 患者1人あたりの単価と、通い続けてもらう理由を育てる。数より単価と継続で支える。
保険の総額は縮み、店は増えました。これは一つの院の頑張りでは動かせない、市場の構造です。だからこそ、保険を適正に守りながら、自費と単価で別の柱を立てる方向に、早く舵を切った院が残ります。全国の数字を自院に重ね、保険依存の度合いを測り、縮小を前提に設計する。これが、市場の縮小の読み方です。
よくある質問
出典
- 厚生労働省「柔道整復、はり・きゅう、マッサージ、治療用装具に係る療養費の推移(推計)」(医療保険に関する基礎資料・令和3年度) mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/111116_01.pdf (2026年6月5日確認)
- 厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」 mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/22/ (2026年6月5日確認)
療養費の推移は推計値で、最新年度の数値は更新されることがあります。1施術所あたりの金額は年度のずれを含む概算です。経営判断にあたっては、厚生労働省の最新の統計で再確認してください。